
選曲にあたり、自分の本当に好きな曲ばかり選びました。元々の曲と作曲者・アーティストへのリスペクトを忘れることなく、トリオの演奏を取り組みました。このアルバムに収録させていただいてる楽曲のその理由・背景などを、少しでも知っていただけると幸いです。
1.少年時代(井上陽水)
この曲がリリースされたとき、私は少年でした。夏の華やかさ、思い出、そして切なさが詰まったこの楽曲の真っただ中にいました。当時はただただ楽しかった夏休み、しかし今はもう帰ってこないあの夏。あの時間を振り返ることができる今だからこそこの曲の風景がありありと浮かばせることができる。それに気づいた時にはすでに大人になっておりました。
なかなか賑々しいアレンジで、あれ?とお思いの方もいらっしゃるかと思います。しかし、ブラジルの曲の中にはリズミカルでも悲しい曲はたくさんあるんですよね。悲しい切ない曲だからこそこのリズムになるのは、自分にとって自然な選択であり必然なのです。
2.Someday,We’ll All Be Free(Donny Hathaway)
学生の時、特にR&B、Soul Musicに傾倒しておりました。うわーかっこいい!どうやったらこんなにグルーヴするんだよ!など、日々サークルの仲間らと研究・セッションなど時間をかけてやっておりました。
その中で最も聴いたアーティストの一人、Donny Hathaway。名盤「Live」を筆頭にリッチなグルーヴ、目が覚めるようなハーモナイズ、そして心に入る歌声。すっかりと虜になり日常ひたすら聴き込んでおりました。
この曲に限らず、彼の曲は70年代のアメリカ公民権運動、アフリカンアメリカンの社会での苦悩が背景になっている曲が沢山あります。しかしこの曲は自分の中で、現代の先の見えない世の中における「いつか自由に」という願いと重なるように思えるのです。
3.The Sun Goes Up And Down(中島道博)
菊田トリオドラマーであり、作曲も手掛けるアーティスト中島道博による楽曲。
彼が参加するバンド「Space Age」のアルバムにも彼自身が提供していたかっこいいこの曲を、うちのトリオでも演らせてください!と私のオファーでセレクトしました。
「街の朝から夜までの、またそれらを繰り返していく日常を俯瞰的に捉える」というお題で書かれたというこの曲。まったく同じテーマでかつて自分が書き上げた「The City Life」と近い風景を描いているのにも関わらず、また違った視線で違った表現でもそれが伝わるという、その面白さも合わせて共感いただけたら嬉しいです。
4.Choo Choo TRAIN(中西圭三)
古くはスキー場に行く電車のイメージソング、21世紀に入ってからはエンタメ系男性グループのカバーでも有名なあの曲。
曲を聴くと、自分の中で豪雪地帯に住む祖母に会いに行く時の記憶が湧くので、前者のほうがイメージ強いかもしれません。東京の少年がトンネルくぐった先の真っ白な世界に狂喜するような、そんなわくわく感を誘うメロディは、今の「元」少年も心を躍らせてしまいます。
アレンジではワルツではありますが、雪の上を疾走するイメージはそのままのつもりです。
5.Down By The Riverside(アメリカ霊歌)
アメリカの古くからある歌、トラッドジャズなどでも取り上げられることが多い曲です。
元々自分はセッションなどで知った曲ではありましたが、最初はただ明るくてノリがいい曲と思っておりました。が、由来や歌詞を後から知って、さらに好きになった曲の一つです。
トリオでは普段このスタイルの曲はあまり取り上げないのですが、トリオ1作目タイトル曲「Under The Sunshine」では積極的に寄せさせていただきました。
6.Nocturne Op.9 No.2(Frédéric François Chopin)
ショパンのノクターン。クラシック詳しくなくても聞いたら誰でも聞いたことのあるあの曲に、モダンジャズでは定番と言ってもいい、ラテンからスイングに切り替わるアレンジを施しました。今でもたまにトリオで演奏したりしております。
トリオ1作目アルバム「Under The Sunshine」でも収録したのですが、それから12年後に録り直してみようと思い付きで録ったテイクが今回のテイクです。両方お持ちの方は是非聞き比べていただければと思います。皆様はどちらがお好きですが?私はさらに12年後のテイクを録ってから考えたいと思います。
7.Rainy Day And Coffee(菊田茂伸)
カバー曲集というのに自分の曲をどさくさに紛れて入れる、それが菊田トリオ(笑)。
2020年に唯一私が書き下ろした楽曲です。もともと某動画サイトのBGMとして作った楽曲だったのですが、これトリオでやってみたらどうかしら?とやってみました。
雨の湿気は、日ごろ使ってる楽器の関係上あまり好きではありませんが、雨の音、空気、ちょっとブレイクを入れるようなコーヒーの香りがミックスされると、とても好みの風景になります。たまには休んで、リラックスしましょう。と自分に言い聞かせるような。そんな曲になりました。
8.Rainbird(岩崎千春)
かつては自身のトリオでオリジナルを作り披露していたピアニスト岩崎さんに、今回のアルバム制作に向けて曲を提供してほしい、とお願いしたところ、このアルバムのために曲を書き下ろしてくださった、そんな曲です。メンバーの曲だし、書き下ろしだし、それってもはやカバーっていうのかどうか、、、まあいいか。
インディアンの住む地方の言い伝えで、恵みの雨を呼ぶ伝説の鳥の名を冠した楽曲。鳥の呼んだ雨が人々の大地を潤して、鳥がそこから飛び去って行く。。。そんな様子が伝わるようなストーリー力の強い楽曲です。流石です、先生。
9.Someone To Watch Over Me(George Gershwin)
ガーシュインの名曲。もともとミュージカル曲であったが、代々ジャズミュージシャンが長く取り上げ続けた「スタンダードナンバー」のひとつ。
この曲の世界観は現代でも通じる!そう信じて、現代ならではのビートを入れてみようと試みた結果、ヒップホップをイメージしたビートをアレンジとして取り入れてみました。ただしサビ部分はオリジナルに近いバラード。
時代を超えても思いは一緒。そんな気持ちを込めたこの温度差が激しい2種のアレンジ。その落差を楽しんでいただけたら、と思います。
10.A Time For Love(Johnny Mandel)
ジョニーマンデルが映画のために書き下ろした曲。しかし何かとジャズミュージシャンに取り上げられて名演がいくつか残されている楽曲であります。
自分が特に心に残っているのは、ブラジルの伝説的歌手Elis Reginaのアルバム「Elis in London」のテイクです。それはオーケストラのアレンジでさらに深まるハーモニーの中悠々と歌い上げるエリスの、最も輝いている瞬間の一つが収められてます。エリスももちろんですが、この曲も一気に好きになってしまいました。
トリオでは、静に近いバラードを意識し、中盤をワルツにすることで高揚感を表現できるようにアレンジを施しました。演奏する側としては地味に難しいアレンジになってしまいました。
11.月の砂漠(佐々木すぐる)
言わずと知れた日本の唱歌「月の砂漠」。曲を記念した像が千葉県御宿にあります。ラクダで砂漠を越えての夜の旅、そんなイメージが残る楽曲です。
どうしても砂漠の旅となると、日本を離れ大陸の旅へ、キャラバン隊で進むシルクロードのイメージもあります。ならば両方を合わせてみよう、とエリントンのCaravanを彷彿するようなアレンジを取り入れてみました。
雄大な自然の中を行く旅は、ただ優雅なだけではない、常に危険と隣り合わせた世界。そんな緊張感も演奏から感じていただけたらと思います。
12.どんなときも。(槇原敬之)
1991年の大ヒット曲です。あの頃ひたすらラジオからもテレビからもずっとかかっていた印象があります。
一人の男性が新たに強い決意を誓うこの曲は、時代を超えていつでも通用するメッセージとエネルギーがあります。
コロナ禍で今までのように音楽に接することができなくなっても、それでも変わらず「どんなときも」音楽を楽しみたい、そんな気持ちを込めました。
サビ前の手拍子、5拍子のアレンジではありますが、曲に合わせて一緒に叩いていただけたら幸いです。
13.Sunday Morning(Maroon 5)
アメリカ出身のバンドMaroon5のヒットナンバーをswingにアレンジしました。まるで西海岸を象徴するような明るくそして気持ちのいいメロディは、軽快なファストスイングにもぴったりだと思いました。
トリオではよくライブのアンコールで演奏することが多いです。特に土曜の夜に。「皆様、良い日曜日をお過ごしください」と気持ちを込めてお届けしてます。そして当アルバムのフィナーレにも相応しいかと思っております。
皆様、最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。このアルバムのサウンドが少しでも皆様の日常が豊かになる助けになれば、本当に嬉しく思います。


